私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
「でも、あんな言い方してて仕事回ってくるんですか?」

「そりゃ私は長いからね。裏事情も色々知ってるからさ、そこは駆け引きよ」

なるほど、春樹と同じなのだ。弱みはお互いにあるということか。


二人で話していると、他の男性派遣社員が休憩室に入ってきた。人数は四人、まだ全員若く、年齢は20代の前半くらいだろう。

夏子さんはその中の一人とは、以前から顔見知りだったそうだ。むこうから気安く声をかけてきた。


「坂井さん、珍しいじゃないですか」

「なにが」

「新人さんの世話してるなんてさ」

「ああ……まあね」


他の派遣社員が次々と自動販売機でコーヒーやジュースを買うと、近くの席に腰をおろす。

その彼も腰をおろすと、私に向かって声をかけてきた。


「土田です、よろしく」


そう言って伸ばされた手が、私の目の前に現れる。


その瞬間、私の思考が恐怖と混乱にぬりつぶされた。

悲鳴とともに椅子が床に転がる。私はその場から飛ぶようにあとずさりし、バランスを崩してしりもちをついた。

< 168 / 203 >

この作品をシェア

pagetop