私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
視界が真っ暗になったようだったが、それも一瞬だ。すぐに心配そうに私を覗き込む夏子さんの顔が見えた。

「すいません、大丈夫ですか」

「ダメ、そこにいて!」

動転したまま駆け寄ろうとする土田を、夏子さんは制した。


「雪、あんた」


体の震えが止まらない。普段はそれほど意識することもなかったが、手を伸ばされると勝手に反応してしまうのだ。

小さく歯を鳴らす私の頭を抱いて、夏子さんはさとすように言った。

「大丈夫、心配ないから」

そして椅子に座らせると、そのまま落ち着くまでずっと私を抱いていてくれた。



その夜、私の部屋には夏子さんがいた。


「私もDVの後遺症でね、しばらく似たような症状に悩まされたことがあったの」

「そうだったんですか。話をするぶんには大丈夫なんですけどね、手を伸ばされると拒否反応っていうか……」

「そうだよね。本当ならカウンセリングとか精神科とか行くのが良いんだけど」

「大丈夫ですよ。気をつけてれば」


症状はすぐに治まるのだ。それほど重度のものではないと思っている。

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