私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
「ここに男性社員を連れ込むのも禁止。女性社員が男性寮に行くのも禁止。それを破れば、すぐにクビだからな」


しかし、そうする意味が、次の言葉でなんとなく分かった。


「困ったことがあればいつでも相談に乗るからな。どうだ、今からメシでも食いに行かないか」


そういうことか。

管理社員が女性派遣社員に手を出しやすいように、男との接触をさせないようにしてるのだろう。


(どいつもこいつも、猿みたいに……)


思わず言ってやりたくなったが、さすがにそこは我慢した。


「いえ、疲れたんで結構です」


あまりはっきりと断られたことは無かったのだろう。中村は


「え、なんで?」


と、驚いた声を出した。


(なんで……って、いま言ったじゃん)


うんざりしながら、私はさっさと自分の部屋へ入ると、バッグを置く。

追いかけてくるようにずかずかと足を踏み入れてきた中村は、それでも引き下がらなかった。


「じゃあ、明日だ。初仕事のあとは色々と問題が出てくるからな。俺がメシを食いながら聞いてやる」


冗談じゃない。

そんなスケベ顔を見ながらじゃ、ご飯も喉を通らない。


「結構です」


欲望丸出しの中村に、私は少しきつくなった目を向けた。


「おい、そんな態度じゃな、この先大変だぞ。俺を怒らせたらどうなるか、分かってるだろうな」


(逆ギレかよ)


「着替えるんで、出て行ってもらえます」


そう言うと、中村は赤い顔をさらに赤くして、荒々しくドアを閉めて出て行った。



(前途多難……ってやつ?)


これからこんなところで何年も過ごすのかと思うと、どんよりとした空気が胸にたまった。
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