私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
仕方なく航空会社の予約センターに電話を入れると、年末年始でイラ立っている予約統括担当者を呼び出した。
「ホントにすいません、先日の無茶ぶり家族の件なんですけど。なんとかレベルあげてくれませんか……はい。ありがとうございます……」
キャンセル待ちにも優先順位がある。各社から同じようなことを頼まれているだろうに、担当者は無理をきいてくれた。
もちろん何度も出来ることではないし、長年の付き合いがあってこその裏技だ。
こんな胃の痛く年末年始は、旅行会社に勤める人間にとっては地獄といえる。
遅くまで残業をして家に帰ると、また母が泥酔したのだろう。灯油が切れたストーブの前で体を丸めて眠っていた。
「お母さん、ちゃんと布団で寝なきゃ。風邪ひくよ」
起こしても目を開けない。大きないびきをかいて、気持ち良さそうに夢を見ている。
(夢の中しか、楽しみないもんね)
私が小さい頃、父は若い愛人を作り、このアパートを出て行った。泣き喚く母を振り切って、階段を駆け降りてゆく父の背中は、最期まで振り返ることはなかった。
私は呆然とそれを見送り、うずくまって泣いている母の頭を撫でた。
その瞬間、私の手は激しくはじかれ、それ以来、優しい母は影を潜めてしまった。次第に酒におぼれ、いまや近所でも有名なアル中おばさんだ。
寝顔を眺めると、ずいぶんと年を取ったな、と思う。それが笑いじわだったなら、この人はどんなに幸せだろう。
私は、母の悲しみを想うと、少しでも優しくしたいと思う。
そんな母を布団までひきずって寝かせると、熱いお風呂に入って、私も横で眠った。
次の朝、隣で眠っているはずの母の姿がなかった。
(朝から散歩かなあ)
寝ぼけた頭で悠長に考えていたとき、家の電話が鳴った。
(嫌な予感……)
朝イチで電話が入ってくるときはロクなことがない。ツアー出発で予約関係のトラブルが起きている可能性が高いのだ。
怖いものにでも触るような手つきで、受話器を取った。
『海野さんのお宅でしょうか?』
会社の人間からではないようだ。聞いたことのない声だった。
「ホントにすいません、先日の無茶ぶり家族の件なんですけど。なんとかレベルあげてくれませんか……はい。ありがとうございます……」
キャンセル待ちにも優先順位がある。各社から同じようなことを頼まれているだろうに、担当者は無理をきいてくれた。
もちろん何度も出来ることではないし、長年の付き合いがあってこその裏技だ。
こんな胃の痛く年末年始は、旅行会社に勤める人間にとっては地獄といえる。
遅くまで残業をして家に帰ると、また母が泥酔したのだろう。灯油が切れたストーブの前で体を丸めて眠っていた。
「お母さん、ちゃんと布団で寝なきゃ。風邪ひくよ」
起こしても目を開けない。大きないびきをかいて、気持ち良さそうに夢を見ている。
(夢の中しか、楽しみないもんね)
私が小さい頃、父は若い愛人を作り、このアパートを出て行った。泣き喚く母を振り切って、階段を駆け降りてゆく父の背中は、最期まで振り返ることはなかった。
私は呆然とそれを見送り、うずくまって泣いている母の頭を撫でた。
その瞬間、私の手は激しくはじかれ、それ以来、優しい母は影を潜めてしまった。次第に酒におぼれ、いまや近所でも有名なアル中おばさんだ。
寝顔を眺めると、ずいぶんと年を取ったな、と思う。それが笑いじわだったなら、この人はどんなに幸せだろう。
私は、母の悲しみを想うと、少しでも優しくしたいと思う。
そんな母を布団までひきずって寝かせると、熱いお風呂に入って、私も横で眠った。
次の朝、隣で眠っているはずの母の姿がなかった。
(朝から散歩かなあ)
寝ぼけた頭で悠長に考えていたとき、家の電話が鳴った。
(嫌な予感……)
朝イチで電話が入ってくるときはロクなことがない。ツアー出発で予約関係のトラブルが起きている可能性が高いのだ。
怖いものにでも触るような手つきで、受話器を取った。
『海野さんのお宅でしょうか?』
会社の人間からではないようだ。聞いたことのない声だった。