私はダメ人間じゃない～ネットカフェ難民の叫び～
確かにそうだ。

クレジットでのショッピングをリボ払いにしても、金利は闇金よりもずっと安い。その余剰金を入金すれば、得なのは私でも分かる計算だ。

私はまんまと乗せられたことも知らずに、次の指示を聞いていた。


『商品はカーナビです。それからここを間違えないでくださいね。商品名は……』


メモ帳に告げられる商品名を書き込んでゆく。

それを書き終えると、そのまま店内に足を踏み入れた。


タイヤと芳香剤の匂いが充満する店内は、私が初めて見る世界だった。

車を持っていなかった私にとって、まったく縁のない店だ。目的の商品がどこにあるかなど分かるはずがない。

ハッピを着た店員をつかまえて、商品名を告げた。

「ああ、こちらです。最新のＨＤＤナビですね」

連れて行かれたブースには、所狭しとオーディオらしき商品が並んでいる。その中央に飾られているナビを指して、

「これです」

と、言った。


私はそれをじっくりと眺めることもなく、


「じゃあ、これください」


と答えていた。



実はこの商品を持ち出すのは苦労した。店員からどの車につけるのか、取り付け工賃は込みとなるので、車を持ち込んでもらわないと困る、などの注文がついたのだ。

私はあたふたとごまかしながら、ようやくその商品を店外に持ち出した。


（そのあとは……）


また連絡してくれとのことだった。

< 55 / 203 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop