私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
「調子に乗るなよ、この──」

相沢が握りこぶしを振り上げると、それは私のお腹に突き刺さった。

内臓がつぶされたと錯覚した。

えぐられる痛みと、呼吸が止まった苦しさで悶絶する。

「ダメ人間のクセによぉ」

相沢は、動けない私に顔を近づけると、飼い犬に言い聞かせるようにまた頬を張った。


(違う……)


「どこにも雇ってもらえねえ、最低のダメ人間だ」

「違う」

みぞおちの痛みにのたうちながら、私はかろうじてその言葉を吐いた。

「ほおお、ダメ人間が口ごたえか」

また拳を握るのを見て、私は反射的に体を丸めていた。

「もうやめて……子供がいるの」

そう言ったあとで、ある計算が働いたのは確かだ。

お腹に子供がいると分かれば、情けをかけてくれるのではないかと、もう解放してくれるんじゃないかと。


私は背中越しに、恐る恐る相沢の顔をうかがった。

「おまえバカじゃねえの」

そう言い捨てる相沢の目の色を見て、背筋が凍る。

「本当にどうしようもないダメ人間だな。自分のことも満足に出来ねえくせに、ガキ作ることだけはやってんのかよ」


再び腹部に痛みが走った。相沢が拳を振るったのだ。
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