私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
つぎの言葉に戦慄が走った。

「知ってるか、腹の子供を殺しても殺人罪にはならねえってことをよ」


「やめて!」

必死に丸めた体の上に仁王立ちした相沢が、何度もお腹を狙って蹴りを入れてくる。

「お願い、やめて!」

そう懇願しても、相沢はただ笑うだけで蹴るのをやめない。

「ダメ人間が母親じゃ子供も可哀相だろが、なあ。ここで死んだほうがガキの為だろう」

確かにそうかも知れない。

こんな母親のもとに産まれてくるとしたら、どれだけ苦労を背負うことになるだろうか。

幸せになれないのなら、いっそこのまま産まれてこないほうが良いのかもしれない。


(じゃあ、私は産まれてきて……幸せだったの?)


父親には幼いころ捨てられた。母親はその後、私を顧みることはなくなった。

それでも私は生きてきた。


(幸せになりたかったから……)


ただ、それだけのために生きてきたのに。


「雪が産まれた時にね、すごく雪が降ったのよ。だから雪って名前にしたの」


優しかった頃の母の声がよみがえる。

そうだ、私はもう一度誰かに優しくしてもらいたかったのだ。それだけで幸せになれたのだ。
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