私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
そしてもうひとり、優しく包んでくれた声がよみがえった。


「お前が雪で俺が春樹だろ。雪に春を運んでやるから、安心しろ」


絶望にあえぐ私にそう言ってくれたのは、春樹だった。

この子供は私だけの宝物じゃない。私と、春樹が生きていたという証なのだ。


(絶対に、産むんだ!)


命に代えても、プライドを投げ捨ててもこの子を守らなければならない。
そう思い至ると、私は抵抗をやめた。

「何でもするから……乱暴はやめて……ください」

しぼり出すように吐いた言葉を受けて、私を蹴る足が止まった。

小さく震える私の体を、舌なめずりして見下ろす相沢が口を開いた。

「最初からそう言えば良いんだよ、ダメ女が」

そして背中をひと蹴りすると、うつぶせになった私にこう言った。


「四つん這いになれ、犬みたいにな」


血の気がひくようなその言葉に、私は唇から血を流しながら歯を食いしばる。

こんな恥辱にも耐えなければならないのだろうか。

お金がなければ、人間として最低限のプライドさえ買えないのだ。この国では。



足掻いても、もがいても、何もかわらない。


どこにも、たどり着けない。
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