私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
電話ボックスのような狭い空間で体を洗うと、すぐに基礎化粧品で肌を整えて髪を乾かす。

これだけは、最低の生活でも譲れない。女のプライドまで捨てたつもりはない。


小さなバッグに、私の生活のすべてが詰まっている。そんな寂しい現実を肩から提げると、カウンターで清算を済ませ、まだ身を切るような空気の中を歩き始めた。


今日の仕事は回転寿司の調理担当だ。

調理とは言っても、ネタは切ってあるし、機械から出てくるシャリにわさびを塗ってネタを乗せるだけの簡単なものだ。

これなら猿にでも出来るだろう。

どこの仕事でもこんな簡単な作業しかない。こんな仕事をいくら積み重ねても、スキルの上積みなど夢のまた夢だ。

雇っている側もそれを熟知しているので、長く来ているからといって、仕事内容を認めることなどない。むしろ、こんな仕事をいつまでも続けている人間に、蔑みの色を深めるだけだ。

「おい!」

男性社員から声が飛んでくる。私はここでは「おい」という名前でしかない。

私は「はい」とだけ返事をし、言われた仕事を黙々とこなしてゆく。

少し暇になり一息つくと、今度は高校を卒業したばかりくらいの年の、化粧の濃い女性社員から声がかかった。

「ちょっと、手が空いたんだったら洗い物やってよ」

そんな仕事をやれとは言われていない。

が、ちょっとでもサボっているように見えると、社員は我慢ならないのだろう。

「言われなくてもわかるじゃん、いい年してさ」

人を小馬鹿にする追い討ちも忘れていない。かと言って、先日は言われずに洗い物をやっていた私を掴まえて、こいつは

「なに勝手なことしてんの」

と眉を上げたのだ。

(どうしろって言うのよ)

さすがに頭にきたので、聞こえるように大きなため息をついて見せた。

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