私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
「えっと、ちょっとトイレで休んでたらどうですか。何か言われたら適当にごまかしときますから」

その作業員は、優しい言葉をかけてくれた。それなのに、とっさにあんな事になってしまった。

相手の気持ちを考えると、少し胸が痛む。

「ありがとう。じゃあ、ちょっとだけ」

ほんの少しでいい。正直、いまは独りになりたくて、私はその言葉に甘えた。


個室に入ると、タイルの壁に背もたれて息を吐く。

(こんなことじゃダメだな)

確かに自分のせいでこうなったのではない。が、それは直接的な要因だ。

もっと自分の足元を見つめていれば、十分に防げたのではないだろうか。

(でも、だましたのはアイツだもの)

騙されるほうが悪い、という言葉を吐く人間には、善悪の区別がつかないのだろうか。

誰がどう見ても、騙すほうが悪いに決まっている。

だとしても、あとは自分がどう立ち直ってゆくか、その問題しか残されていない。

誰かに同情されて腹が膨れるわけじゃない。お金が入ってくるわけじゃない。

心の傷が生きてゆくために邪魔になるのなら、私は自分の心すら捨てなければならない。



少なくとも、今は。
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