私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
散らかっている割にはキッチンは綺麗にしている。そしてトイレやバスも汚れてはいなかった。

意外と綺麗好きなのかもしれない。


(そういえば)


中川が、自分は掃除好きだと昨夜言っていたような気がする。


どっちにしても、自分の意思とは関係なくことは運んだのだ。

昨夜、なにかあったとしても、そんな恋愛関係は無効にしてもらわなければならない。


(このまま帰ろう)


私は玄関のドアを開けた。


(え……)


外の眩しい光を、人影が遮る。ちょうどこの部屋の住人が帰ってきたところだった。


「おはようさん」


そう言って逆光のなかで微笑んだのは、春樹だった。


そのとき、私は安心したのだろうか、それとも逆に感情が昂ぶったのだろうか。それはわからない。

ただ、

「お、おはよう」

と、うわずった返事を返すのが精一杯だった。




狭い部屋は、布団を敷くとテーブルを置くスペースすらない。春樹はその布団を無造作にたたむと、部屋の隅に追いやった。


「コーヒー飲むか?」

「あ、うん」


どうにも落ち着かない。

そりゃそうだ。
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