ピンクの落書き
「これ…初めて話すからね…」
「うん。ちゃんと聞いてるよ」
琉那もいろいろ抱えているんだろうなぁ。
だから、あんなに吠えたり、こんなに涙を流したりする。
「翔太が…アカネといるとこ見ちゃったんだ」
アカネの名前が出た瞬間、びっくりしたがただ黙って琉那の話を聞いていた。
アカネと琉那は、球技大会でもケンカになったし、とにかく仲が悪い。
「廊下にふたりでいたの…」
「でも、普通に話してただけかもよ?」
「違う。廊下の端っこの誰もいないところで、アカネが翔太の右手を握りながら…ふたりだけで話してたの」
俯いてしまった琉那。
「そんなところ見て、なんで言いに行かなかったんだよ?琉那の彼氏に手を出すなって」
「なんか…怖くって逃げちゃった。すごく怖かった」
怖いという感情は、謎だった。
「怖いって?」
「アカネのことが好きなんだって…翔太に聞かされるのが嫌だった。怖かった。何も聞きたくなかった、何も見てない振りしたかった」
「翔太がアカネのこと、好きだなんて決まったことじゃないんだろ?」
「決まってないけど…何も訊けない」
琉那がこんなに暗くなるのを初めて見た。
今にも死にそうな声なんか出して。
「でも、ちゃんと確かめないといけないよ?翔太はそんなやつじゃないんだろ?」
「うん…」
「うちもついてるから。大丈夫だから」
「ありがと…」
今の琉那に元気づける言葉をかけても意味なかった。
耳になんか入っていない。
魂が抜けた顔の琉那。
そっと抱きしめたが反応がなかった。