ピンクの落書き
「……ちゃん。…翼ちゃん。起きて?」
声が聞こえ、目をゆっくり開けた。
体を起こすと隣にはまきちゃんが立っていた。
「あ…まきちゃん」
「翼ちゃん。授業終わったよ。鍵、置いておくからね」
そう言って、まきちゃんはうちの机の上に音楽室の鍵を置いた。
「ありがとう」
「それじゃあね。他の先生にあまり、見つからないようにね?」
笑顔を残して、音楽室をあとにしたまきちゃん。
鍵を置いて行ってくれるなんて、まきちゃんの心使いだろう。
うちの今日の気持ちを察知して。
だって、うちはまだここにいたかったから。
音楽室にただ一人のうち。
「なんで…休むのよ?」
と小さく呟く。
今日は、5月14日。
緑色に変わった葉が、爽やかな風にゆれる季節。
それと…颯の誕生日。
14年前の今日に颯が生まれたんだ。
“おめでとう”
って言いたかったのに…。
颯の机を見る。
空っぽでどこか寂しそうな机。