ピンクの落書き
「はい、手出して」
颯はそう言いながら、うちの前にしゃがんだ。
言われるがままに颯の前に右手を差し出す。
「貼るよ?」
「うん」
颯はゆっくり慎重に薬指に湿布を巻いていく。
こんな目の前に颯がいる。
目が離せなくって…
でも…一瞬にして現実に引き戻された。
しゃがんでいる颯の首。
体操服の襟がめくれた。
そこにはキスマークがくっきりと記されていた。
そっか…こいつには彼女がいたんだった。
「ねぇ、もういい」
「は?なにが?」
「手。もういいから」
湿布を巻いていた颯の手から手を無理矢理離す。
「どうしたんだよ?あと、少しなのに」
湿布から目が離れ、その瞳はうちに向けられた。
彼女いるのに…どうして他の女なんかに優しくすんの!?
こんな奴に気持ちが揺れていたなんてことに、腹がたってきた。
こんな奴に何を願ったって無駄なのに。
「うん。ありがと。んじゃ」
ぶっきらぼうにお礼を言い、立ち上がった。