ピンクの落書き
「泣かないでよー。よしよし」
お母さんのように頭を撫でてくれる琉那。
もう周りにはクラスメイトが席についているのだが、うちと琉那と颯はお構いなしだ。
泣きじゃくった。
そんな中、空気を読まずにチャイムが鳴った。
琉那は翔太の隣のお決まりの席へと座りに行く。
「授業を始めるよ~」
音楽室にはまきちゃんが入ってくる。
うちと目を合わせ微笑んだ。
まきちゃんもわかっているんだろう。
たぶん、颯に、誕生日おめでとうって机に刻んだときから…。
鍵を渡し音楽室にひとり残してくれたこと。
うちが颯のことが好きだってわかっていたんだろう。
それを気遣って。
まきちゃんにも、感謝しなくちゃ。
「翼って思ったより泣き虫なんだな」
意地悪く、でも温かく颯は微笑んだ。
「うるさい」
それに口を尖らせ答えるうち。
何カ月ぶりのこの席。
隣には颯がいてくれて。
この音楽室でこの恋は生まれた。
この席に座ることができたのだから、“北河”という名字をくれたご先祖様に感謝。
そんな細かいことにも感謝をしてしまうほど、この恋は周りに支えられて叶えられたと思う。