ピンクの落書き
「俺がな、小5の時に家出をしたんだよ。親父と仲が悪くって家が嫌いだったんだ。家にいるのが嫌で、夜フラフラしてた。んで、母さんが俺を探しに行った時に事故った。すぐ救急車で運ばれたんだけど、だめで…」
颯の笑顔の裏には、こんな過去があったなんてわからなかった。
ずっと自分を責めてきたんでしょう?
「親父は母さんが死ぬ時。違う女と遊んでて病院に来なかったんだ…!それが許せなくて」
一瞬だけ拳を強く握った颯。
「浮気してたって事は、母さん気付いてたらしいけど。それから、俺は親父が許せねー。どうせ親父も俺をウザがってるよ。俺のせいで、母さんは死ぬし、浮気女と結婚できないでいるからな。今も、寝に帰ってきてるだけ」
だから、この家は冷たく感じたのか。
颯は寂しかったよね。
14年しか生きていないのに、こんな顔をする人を初めて見た。
悲しいを通り越している感じ。
なんて言ったらいいのかもわからないけど…。
「俺が家を飛び出したとき、母さんが行くなって止めたんだ。腕を引っ張って。その腕を振り払って俺は言ったんだよ…」
颯は両手の手の平で顔を覆った。
泣いてるの?
ねぇ、颯泣いているのかな?
「…“母さんなんて死んじゃえ”って。そしたら、本当になっちゃって。俺のせいで母さんは、死んだんだってずっと頭から離れなくて……」
声がだんだん震えていた。
うちは、颯を包み込むように横から抱きしめた。