恋がはじまるよ
 父親に「話がある」などと言われたのは、生まれて15年間の間で初めてのことだった。

 不動産関係の会社を経営している父親は、結衣が小さい頃から忙しく働いていた。

 平日は夜遅くまで家にいなかったし、日曜も付き合いのゴルフだとかで、出かけていることが多かったので、実は父親と一緒に過ごした記憶があまりない。

 そんな父親と面と向かって二人だけで話をするのは、なんだか気恥ずかしい。

 一体何を言われるのか、検討もつかない。

 もしかしたら、4月から高校生になる結衣に、父親として言っておきたいことでも、できたのだろうか。

 喉が渇いていたので、とりあえずキッチンに行き、冷蔵庫から紙パックのオレンジジュースを取り出す。

「話って、何……?」

 父親の方を見ないまま、結衣はそう返事をしたが。

 次に背中に届いた言葉に、あまりにびっくりして、手に持っていたガラスのコップを危うく落としそうになった。

「お父さんの会社。昨日、倒産したんだ」
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