恋がはじまるよ
「遅かったやんか」

 ちひろが三階の端の小さな部屋のドアを開けると、中から聞き慣れないイントネーションの声が響いた。

「ごめん。遅くなって。でも、今日は頑張って修(しゅう)の好きなものばかり、作ってきたんだよ」

「ホントに?」

「うん。ハンバーグと、とりの唐揚げも入ってるよ」

 部屋の中にいたのは、結衣より少し背が高い、整った顔をした少年だった。

 やんちゃそうで、髪はツンツン短く立っている。

 臙脂色のネクタイをしているから、中等部の生徒だ。

 修は、ちひろからブルーの大きな袋を受取ったときに、その後ろにいた結衣にやっと気が付いたらしい。

「誰?」

 訝しげな表情を浮かべて、首を小さく傾げる。

「編入生の、渡辺結衣ちゃん。アタシの隣の席なの」

 ちひろが紹介してくれたので、結衣がぺこりと頭を下げると、修は結衣をじっと見た後。

「俺、お茶いれてくる」

 それだけ言うと、そそくさと部屋の奥の棚の向こうへ、行ってしまった。

「あっちに、ポットと、小さなキッチンと、冷蔵庫もあるんだよ」

 そんなものがあるなんて、ここは一体何に使われている部屋なのだろう。




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