恋がはじまるよ
「それ、本当?」

「会社がつぶれたなんて、冗談で言うバカがいるか」

 父親は、結衣に告白して肩の荷が下りたのか、ふうっと長いため息をついた。

 実はこの家も借金の担保になっていたのだが、東京にいる「おじ」が、お金を貸してくれて、何とか家だけは手元に残ることになったらしい。

 だから、これから貧乏を覚悟で、少しずつ借金を返しながら頑張ろうと思っている。

 そう言い終えると、父親はテーブルの上にあったタバコの箱に手を伸ばした。

「自分でつぶしたものは、自分で何とかしないと駄目だからな」

 会社が倒産して落ち込んでいない筈はないが、とりあえず前向きな父親の発言にはホッとする。

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