恋がはじまるよ
 父親は、少し痩せた気がする。

 きっと、会社のことでいろいろと大変だったのだろう。

 家が大変なら、自分も子供なりに何かできることはないか、結衣はぐるぐると考えてみた。

 そして。

「じゃあ、高校行くのやめて、結衣も働くよ」

 それが、結衣の出した、自分なりの結論だった。

 4月から通うことになっている高校は私立の女子高で、授業料も高いし、結衣が働けば、その分、家計も楽になる筈だ。

 それに、結衣は勉強が好きなわけでも、特別なりたい職業があるわけでもなかったから、どうしても高校に行きたいという気持ちもない。

 けれども。

 黙ってタバコを吸っていた父親は、首を横に振った。

「駄目だ。高校はちゃんと行かないと」

「でも……」

 お金ないのに、無理しなくても……そう言いかけた結衣を遮るように、父親は咳払いをひとつして。

 また、結衣が驚くようなことを言い出した。

「ただし、東京の学校だけどな」




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