AKANE
「僕にも真偽がわからないんですが、アザエル閣下がこの城を留守にしていた間、閣下はサンタシの領土内に入って、地を荒らし兵を斬ったとか・・・」
 朱音はぱらぱらと手の中のクッキーの粉を零すと、従者の少年に詰め寄った。
「それって、どうゆうこと!?」
 急に服の袖口を掴まれて、まごついたルイは、美貌の主を見つめ返した。
「えっと、つまりは国の許可なしに勝手な行動をした謀反者だと元老院は話しているそうです」
 アザエルがサンタシの領土内に入ったことや、兵を斬ったことは事実であった。
 しかし、それは朱音をアースから鏡の洞窟の力を使ってこちら側の世界レイシアに連れて来る為にしたことで、勝手な行動などではなく、列記とした国王ルシファーの命の元に動いた結果である。
「僕が思うに、アザエル閣下は賢いお方です。決して何もないのにそんな軽薄な行動はとられない筈・・・。きっと何か重要な理由があったに決まっています」
 ぎゅっと握り締めた拳を震わせて、ルイは訴えかけるように朱音の目を見つめる。
 一体過去に何があったのかは知らないが、この少年がアザエルに恩義があり、敬意を抱いていることは明らかだった。
 でも、そんなルイには悪いと思いながらも、憎いあの男がそうなることを自業自得だと思い、ざまあみろと思う心を止められなかった。
「あいつなんか、どうとでもなればいいよ。こっちはいなくなって清々する」
 ルイの悲しげな目が大きく揺れた。
 朱音はルイのその目に罪悪感を抱き、白い鳩に再び視線を戻した。
「閣下はひどく陛下のことを気に掛けておられました。こんな弱輩者の僕を陛下のお傍に仕えさせる時点で、こうなることを予測していたのかもしれません」
 灰色の髪はいつもよりひどく乱れている。身だしなみを整えるのを忘れる程、従者の少年はアザエルに下りた判定に取り乱したのだろう。
 アザエルにそのような判定が下りたことから察するに、フェルデンが昨晩のことを咎められずに、そして誰にもその出来事を知られることなく朝を迎えたということも意味していた。
< 102 / 584 >

この作品をシェア

pagetop