AKANE
「小鳩に空から調べてきて貰ったのですよ。夜明け前、港街メトーリアに向かった筈の使者達を乗せた荷馬車は、道を大きく逸れ、ボウレドの街に向かったそうです。なんらかの事情で立ち寄らざるを得なくなったのでしょうね」
 朱音は、朝霧の中で小屋の窓を叩くクイックルの姿をふと思い出した。
「クイックルが調べてくれたの!?」
 目をきらきらさせてクリストフの傍に寄り付く黒髪の主に、ルイはあたふたとする。
 クロウを陥れようおとする者達の仲間かもしれないのに、疑がう心を微塵も見せない純真な主が、あまりに心許無く、従者の心に不安を掻き立てる。
「クイックル?」
 ぱちくりと瞬きをして首を傾げるクリストフに、
「そう。わたしがつけたの! クリストフさんの小さなお友達」
 ああ、と手をぽんと軽く叩くと、クリストフは破顔させた。
「彼女に名前をつけてくれたんですね! 素敵な名前です」
 朱音は少し驚いてぽりぽりと筋の通った鼻を搔いた。
「クイックルって女の子だったの? わたしはてっきり男の子だとばかり・・・」
 すっかり打ち解けた雰囲気と距離に、ルイが思わずはらはらして割って入る。
「そんなことより! ボウレドですよね!? で、どうするんです?」
 疑り深い目を向けるルイに、クリストフは苦笑を洩らしながら言った。
「昨日、元老院がアザエル閣下の暗殺の為に刺客を放ったと言っていましたよね? クイックルの情報によると、まだ彼らは無事な様子ですし、刺客はまだ仕掛けてはいないようです。・・・となれば、ボウレドで何か起こるかもしれませんね・・・」
 すらりとした指でクリストフは揉み上げに触れた。この仕草は、何か考えるときの彼の癖のようである。
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