AKANE



「これはひどい・・・、こんな傷でよく今まで旅を続けてこられたものだ・・・」
 街医者のフレゴリーは熱に浮かされた青年の肩の傷を手当てしていた。
 フェルデンの意識は朦朧としており、ひどい高熱で額に大粒の汗を浮かべている。
「今すぐに傷を切開して悪い血を出さねばならん・・・」
 フレゴリーは切開用のメスを医療具の入った引き出しから手にとると、アルコールの入ったトレーの中に浸して殺菌を始めた。
 ユリウスはごくりと唾を飲み込んだ。尖ったメスがぎらりと光を反射する。
「彼は助かりますか?」
 切開用のメスを清潔な布で拭うと、フレゴリーは細く小さな目でじっとユリウスを見つめた。
「今まで、毒素が脳や心臓に回らなかっただけでも奇跡的だ。傷から血を抜いて、腫れがうまく引けばいいが・・・。とにかく、このまま高熱が続けば彼が危険なことに変わりない」
 ユリウスはこんなになるまでフェルデンの異変に気付くことができなかった自分の不甲斐無さを浅ましく感じた。
「これだけの高熱だ、おそらく痛みは麻痺しているだろうが、念の為だ、彼が動かないようにしっかりと押さえていてくれ」
 フレゴリーがメスを構えた。
 ユリウスは痛ましい光景に目を背けそうになりながらも、無言で街医者の指示に従った。
 全体重をかけてフェルデンの身体、主に腕に圧し掛かる。曝け出された上半身の尋常ではない熱さがローブごしに伝わってくる。
 フレゴリーがそれを確認すると、ゆっくりとメスをフェルデンの傷口に宛がった。
「うあああああああああ!」
 フェルデンが耳を覆いたくなるような呻き声をあげた。
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