AKANE
「わたしが連れて来たんだよ」
 ルイの背後から真っ黒な髪の少年がすっと現れた。ユリウスは驚きであっと声を上げる。
 そこにいたのは即位パーティーの夜に見たあの、世にも美しい魔王の息子、クロウに違いなかった。
「どういうことだ、ルイ。殺されたいか」
 アザエルは凍りつくような碧い目をルイに向けると、その首を片手で締め付けた。
「す、すみません・・・、閣下・・・、全て、僕の不注意です・・・」
「アザエル!! 違う! ルイのせいじゃない!」
 朱音はルイの首にかけられたアザエルの手を引っ張った。
「こんなことやめて! 悪いのは全部わたしなんだから!」
 目に涙を浮かべながら懇願する少年王の姿に、ユリウスは戸惑いを隠せなかった。先程まで自分達を襲っていた謎の男達は、この少年王の差し金に違いないと思っていたのだ。  
「陛下のお望みならば・・・」
 アザエルは意外にもすんなりとルイの首から手を離すと、すっと朱音の前に居直り、礼の形をとった。
 ルイが咳き込みながら呼吸を取り戻す。
「陛下、失礼ながらお聞かせください。なぜこのようなところへ来たのです」
 感情の篭らないアザエルの言葉は、いつになく冷たさを放っている。不機嫌な時程この男は、より丁寧な口調で冷たく話をすることを朱音は知っていた。
「元老院があんたをサンタシに渡すまいと刺客を送ったからだよ」
 ユリウスは剣を鞘に納めると、少年王の言葉に耳を傾けた。
「でも勘違いしないで。わたしはあんたを助けに来た訳じゃない。フェルデンを無事に国へ送り返す為に来たんだから」
 魔王の側近がクロウに忠誠を誓っていることは、傍目から見ても明白だった。しかし、王たる少年はこの男を信頼しているという訳では無さそうである。ユリウスはこの二人の不可解な関係についてどうもしっくりこない思いに囚われていた。
「今すぐ城へお帰りください。王が城を空けるとは言語道断。国の混乱を招くおつもりですか」
 冷たく射放たれた視線は、ぐっと朱音の言葉を詰まらせた。また儀式の前と同様の有無を言わせないあの目だった。
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