AKANE




 あまりにダメージの大きすぎたリーベル号は、昼過ぎになってから海上で応急処置を始めた。
しかしそれはあくまでも応急処置。このまま航行を続けることはできないという船長アルノの判断で、船は一旦近くの港で大規模な修理を受けなければならなくなってしまった。
 船は昨晩の大嵐で予定の航路から大きく外れ、サンタシ国が位置する大陸のずっと南の辺りまで流されていた。
 幸い、すぐ近くに小国リストアーニャがあり、リーベル号の行き先は急遽そちらへと変更となった。
「あああ~~~・・・、死にそう・・・」
 ユリウスがひどく顔色悪い様子で窓から突き出した首を引っ込めた。
「あの揺れで目が覚めなかっただけでも驚きなのに、夜が明けて揺すっても叩いても起きないものだから、おれはてっきり既に死んでるのかと思ったぞ」
 フェルデンは呆れ顔で小柄のユリウスの背中を擦ってやる。
 朱音の存在に気付いた後、落ち込んだフェルデンが寝泊りしていたクルー用の一室に戻ると、ユリウスが一度も目覚めた様子もなくハンモックで眠り続けていた。起こそうと試みたが、一向に起きる気配は無く、異様な程深く眠りについているようであった。しばらくしてからやっと起き出したユリウスだったが、起き抜けに、突如強い吐き気に見舞われ何度もどし始めたのだ。
「す、すみません、殿下・・・」
 ユリウスは青い顔でフェルデンに何度も頭を下げた。
「昨日、夕食の後に出された飲み物の中に、どうも一服盛られたようです・・・。
あれを飲んだ直後、急に眠気が襲ってきて、その後の記憶が無いんです・・・」
 フェルデンは不可解そうに眉を顰めた。
 昨晩は夕食後に出された飲み物にフェルデンは手をつけないままあの積荷の地下の一室へと向かったことを思い出した。
「一体誰が何の為に・・・?」
 ユリウスがもう一度込み上げてきた吐き気を窓を開けてなんとかやり過ごすと、疲労し切った様子で答えた。
「あの人じゃないですか、元魔王の側近・・・」
「アザエルか?」
 大きく頭(かぶり)を振ると、フェルデンは昨日の嵐で倒れたままにたなっている椅子を起こし、そこに腰掛けた。
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