AKANE
10話 リストアーニャ
朱音とクリストフは喧騒の中を歩いていた。
「お嬢ちゃん! お一つどうだい?」
今日は月に数回開催されるリストアーニャの市(いち)の日だった。
屋台で香ばしい匂いを漂わせている串焼きを差し出しながら、男が朱音を引き止めた。
「あ、えーと・・・」
「失礼、わたしのフィアンセは脂っぽいものは苦手なんです」
クリストフがすっとその間に割って入ると、男はちぇっと舌打ちして引き下がっていった。
「クリストフさん、今の美味しそうだったのに・・・」
指を咥えながら、恨めしそうにクリストフを見つめる朱音は、リストアーニャの女性が身につける民族衣装に身を包んでいる。これは、気を失った朱音を例のごとく風に乗せて今朝方ここリストアーニャまでやって来たクリストフが、早朝から買い出してきた品の中の一つであった。
「あれだけはお勧めできません! あの肉を焼く際に使用しているスパイスが麻薬性の強い木の実なんです」
ひっと声をあげると、朱音は生唾を飲み込んだ。
「この国は商売の国として有名ですが、規制がほとんどありません。その為、危険なものが多く出回っています。よく商品を見定めて売り買いしないと痛い目をみるんです」
なんと恐ろしい国だ、と朱音は急に小さくなって歩き始めた。
「それと、もう一つ忠告しておきます。絶対にわたしから離れないでください? いくら美味しい話を持ちかけられても知らない人について行かないこと! いいですね?」
小さな子どもにでも言い聞かせるかのようなクリストフの言葉に、朱音はぷうと頬を膨らませた。
「何それっ、なんでそう子ども扱いなの」
困ったように肩を竦めながらクリストフが小声で言った。
「お嬢ちゃん! お一つどうだい?」
今日は月に数回開催されるリストアーニャの市(いち)の日だった。
屋台で香ばしい匂いを漂わせている串焼きを差し出しながら、男が朱音を引き止めた。
「あ、えーと・・・」
「失礼、わたしのフィアンセは脂っぽいものは苦手なんです」
クリストフがすっとその間に割って入ると、男はちぇっと舌打ちして引き下がっていった。
「クリストフさん、今の美味しそうだったのに・・・」
指を咥えながら、恨めしそうにクリストフを見つめる朱音は、リストアーニャの女性が身につける民族衣装に身を包んでいる。これは、気を失った朱音を例のごとく風に乗せて今朝方ここリストアーニャまでやって来たクリストフが、早朝から買い出してきた品の中の一つであった。
「あれだけはお勧めできません! あの肉を焼く際に使用しているスパイスが麻薬性の強い木の実なんです」
ひっと声をあげると、朱音は生唾を飲み込んだ。
「この国は商売の国として有名ですが、規制がほとんどありません。その為、危険なものが多く出回っています。よく商品を見定めて売り買いしないと痛い目をみるんです」
なんと恐ろしい国だ、と朱音は急に小さくなって歩き始めた。
「それと、もう一つ忠告しておきます。絶対にわたしから離れないでください? いくら美味しい話を持ちかけられても知らない人について行かないこと! いいですね?」
小さな子どもにでも言い聞かせるかのようなクリストフの言葉に、朱音はぷうと頬を膨らませた。
「何それっ、なんでそう子ども扱いなの」
困ったように肩を竦めながらクリストフが小声で言った。