AKANE
朱音は必死に考えを巡らせた。
(今の身体はクロウのものだから、ゴーディアの出身だよね・・・?! でもよく考えたら、わたし何も証明になるもの持って来てない・・・!)
 男の言葉に黙り込んでしまった朱音の姿を見て、男はふんと鼻を鳴らした。
「悪く思うなよ、これも商売、金の為だ」
 咄嗟に身を翻して逃げようとする朱音の腕をぐいと掴むと、朱音はいとも簡単に男の手に捕えられてしまった。こんなときに限って、ボリスは戻らない。ひょっとしたら、このおぞましい出来事を近くで震えながら見ているいるのかもしれない。嫌、見つかることを恐れて逃げ遂せたのかもしれなかった。
 でも、もしボリスがこの光景を見ていたのなら、クリストフに伝えてくれることを今は願うしか無かった。
 乱暴に投げ込まれた檻の中は暗く、既に何人もの子ども達が震え、啜り泣いていた。
「ふぇっ・・・、わたしは孤児なんかじゃないのに・・・、家族だっているのよ・・・」
 暗がりの中で、朱音のすぐ傍の少女が懸命に訴えかけていた。
「ぼ、僕だって・・・! 父ちゃんの出稼ぎにくっついて来ただけなんだ!」
 その声につられて、子ども達が一斉に声を上げて泣き始めた。荷馬車の周りでも、大人達の咽び泣く声が聞こえる。きっと、身分証を持たない子ども達の家族や親や親戚達だった。
 朱音は気を緩めると、ついつい零れそうになる涙をぐっと堪えた。他の子ども達よりもいくつか年上だろう自分がしっかりしなくては、と思ったのだ。
 朱音自身、今は家族と引き離される子ども達の気持ちが痛いほどよくわかった。レイシアへ来て、天涯孤独の身を知った朱音にとって、ここにいる子ども達はまるで自分を見ているようであった。
 やがて動き始めた荷馬車に揺られながら、悲しみに暮れる子ども達に朱音は囁いた。
「大丈夫、心配しないで。 きっと家族の元に帰れるよ。 きっと皆を逃がしてあげるから・・・」


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