AKANE
「よろしくね、カロル」
 にこりと微笑むと、周りの子ども達も僕もわたしもと名前を名乗り出した。
「ぼく、アントン!」
「ジャンだよ!」
「わたしフランカ」
 朱音は子ども達に満面の笑みで答えた。
「なんだなんだ、騒がしいな・・!」
 檻の外から図太い男の声が響く。びくりと身体を強張らせると、子ども達は朱音の傍で皆縮こまった。
 途端、ばっと捲られた布。薄暗さで目が馴れていた朱音は、眩しさで目が眩み目を瞑った。
「こりゃ驚いた・・・。見てみろ、思わぬお宝が紛れ込んでたぜ」
 その声は昨晩の大男の一人のものだった。
「昨日は暗くてよく見てなかったが、これはラッキーだぜ。奴隷として売りさばくにゃ勿体無い」
 やっと見え始めた朱音の視界に、檻越しに眼帯をした大男と禿げ上がった大男の二人が、自分を驚きの目で観察している様子が入ってくる。男達の話していることが、自分のことだと気付き、朱音はひどい嫌悪感を覚えた。
「アカネお姉ちゃん・・・、わたし達、一体どうなるの・・・?」
 今にも泣き出しそうな顔で、カロルがぎゅうと朱音の腕にしがみ付いてきた。
「大丈夫、きっとわたしが何とかするから、心配しないで」
 魔力のこれっぽっちも無い今の朱音に何かできる筈は無かったが、子ども達を安心させる為にも、自分を安心させる為にもそう呟いた。子ども達は、月の女神アルテミスによく似た朱音の言ったことを信じ切っているようだった。
 太陽が真上に昇る頃、朱音と子ども達の入れられた檻は荷馬車に揺られて、どこか別の場所へと移動を始めたようであった。
『アカネ嬢・・・、アカネ嬢・・・!』
 揺れた馬車の中ゴトゴトというやかましい音に紛れて、どこからともなく囁くような呼び声が聞こえてきた。
「?」
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