AKANE
 なぜならば、その足音は一頭の足音だけではなかったからだ。
「くそっ、この役立たずめ! 走れっ、走れっ!」
 このチッポカも可哀相なものだ。こんな大男一人乗せて歩くだけでも大変だろうに、その上少年も一人乗せて全速力で走ることを強要されているのだ。
「止まれ! そこのでかぶつ! 殺されたくなきゃな!」
 背後から突然声が飛んできた。
何者かに二人は追われているようだった。
 ちらとアリゴの顔を見上げると、これ以上ないというほどの汗を掻いている。この汗が暑さだけからきているものではないのは明らかだった。
「おいっ! まじで止まれ! 殺すぞ!」
 ただごとではないと気付き、朱音はアリゴの服を掴む。
「アリゴさん! 止まって!」
 アリゴは朱音の言うことを無視し、チッポカの尻を叩き続ける。
「アリゴさん!」
 このままでは、本当に殺されてしまうかもしれない。いや、その逆で逃げなければ殺されるのかも。そう思うと、朱音はどうしていいものかわからなくなった。
「!!」
 どうっという音とともに、朱音達の乗るチッポカが砂の上に勢いよく転がった。乗っていた朱音もアリゴも勢いよくそのまま投げ出され、砂の上をダイブする。
 一瞬何が起こったのかわからなかった。
「グウウウウン!!」
 雄のチッポカは興奮してそのまま砂の上を走り抜けていってしまった。 
「ちっ、手間かけさせやがって」
 二人を囲むように数頭のチッポカが立ち止まる。その上から何者かの声が降ってきた。
 一人の男の手には縄のようなものが握られてその縄で朱音達の乗っていたチッポカの足を引っ掛けたらしい。
「い・・・たたた・・・」
 朱音がのそりと起き上がると、カチャリと顎のしたで金属の冷たい感触が触れた。
「金目の物を全て出しな。それに、食料も水も全部だ」
 朱音の首元に突きつけられているのは、刀剣だった。
「わ、わかった! 渡す!」
 少し離れたところで、アリゴがあたふたと懐をまさぐっている。彼も同じく剣先を向けられているようであった。
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