AKANE
「ほら、持ち金はこれで全部だ。まだ商売の途中でこんだけしか持ってない! 本当だ!」
「まだその腰にぶら下ってる水があるだろ。それもよこせ」
 朱音は自分の首に剣先を宛てがっている男をゆっくりと見上げた。黒布を頭に巻きつけ、僅かにあいた隙間からは目だけが覗いている。
「あなた達、なに・・・?」
 思わず口をついて出てきていた言葉に、朱音ははっとして唇を閉じた。
「くくっ、おいお頭ぁ、このお嬢さん、俺たちを知らないそうだぜ!」
 ざっとチッポカの背から砂の上に飛び降りた音が聞こえた後、男の背後からゆっくりと別の人物が近付いてきた。
 お頭と呼ばれた男は、朱音のすぐ近くまで歩み寄ると言った。
「世の賊と名のつく者どもは、皆俺達の名を聞くと震え上がる。ドラコの名を聞いて正気でいられる奴がまだこの世にいたとはな」
 アリゴが何やら喚いている。
「頼むっ、殺さないでくれ! おれはただの商人だ。何も持ってやしない」
 ドラコという賊の頭が、アリゴに言い放った。
「まだいいものを持ってるじゃねえか。俺の目を誤魔化そうったってそうはいかねぇぜ。お前は奴隷売りだろ? こいつをいただく」
 朱音ははっとしてその男を見つめた。
(こいつって、もしかしてわたしのこと・・・!?)
 アリゴはまだ何か喚いている。
「だめだ、そいつだけは勘弁してれ! ただの商品じゃねえんだ!」
 ほうっと関心ありげな返事をすると、頭の男は朱音の首に宛がっていた剣を収めさせた。
「それならより一層いただき甲斐があるじゃねぇの」
 ぐいと朱音の腕を掴み上げると、そのままひょいと乗っていた自分のチッポカの背に朱音を乗せてしまう。
「え!?」
 朱音がパニックを起こしているのも構わず、頭の男は手下の男達に合図を送る。
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