AKANE
 サンタシの騎士団を率いる彼がゴーディアとの戦いで最前線で剣を振る姿が、ありありと目に浮かぶぶ。
「わたしが城を抜け出したせいだ・・・! 戦争をやめさせなきゃ!」
 朱音の頭は真っ白になった。
 彼を無事サンタシへと送り届けることを一番に願っていたというのに、まさかこんな形になってしまうとは。
「とにかく、ここから抜け出さないと!」
 そう言った瞬間、鉄の扉がぎいと音を立てて開かれた。
「どこに行くって?」
 炎のように真っ赤な髪。燃えるような緋の目がじっと二人を見据えている。
「ファウスト!」
「エフ!」
 二人は同時に叫び出していた。
「言っておくが、ここからお前達を出す気はさらさらねぇぜ」
 短い期間ではあったが、ルイは彼と行動をともにしてきた。大雑把で男気のある“エフ”という青年は、いつも快活な笑顔を見せていた。
 しかし、今目の前にいる彼は、今まで見てきたあの青年からは想像もつかない程の圧力を露にしている。緋色の目を見ていると、ルイの本能が“あいつは危険だ”と告げているのか、背筋がぞくぞくと凍るような思いがした。
 朱音ははっとした。
 “緋の眼の男が陛下を狙っています・・・”という、嵐の夜のアザエルの言葉を思い出したのである。 
(わたし、どうして今まで気付かなかったの・・・!?)
 しかし朱音がそのことに気付くのはあまりに遅すぎた。ファウストの目論見は全て順調に進み、今まさに仕上げの段階へと入る瞬間だったのだ。
「アカネ。いや・・・、クロウ陛下と呼んだ方がいいか?」
 驚きで目を見開き、ルイは咄嗟に朱音を庇うように前へと踏み出した。
「あなた、最初からそれを知っていたんですね!」
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