AKANE
 きっと睨み上げるルイにまるで怯んだ様子も無く、ファウストは呆れたように肩を竦め鼻で笑った。
「ボウレドでアザエルを狙った時にお前らが一緒にいたのを近くで見てた、それだけだ。うまく女の振りして変装してはいるが、生憎、おれは魔王ルシファーの顔を拝んだことがあってな、すぐにぴんときたぜ」
 ファウストの口振りからすると、朱音がクロウ王だと知りながら、まるで知らぬ振りをしてルイにうまく近付き、そしてこの状況に持ち込んだということだろう。そのことにルイは腹立たしさを感じずにはいられなかった。ファウストに勿論怒りは感じたが、この男が怪しいと今まで気付きもしなかった自分の不甲斐無さに何より怒りを抑えることができなかったのだ。
 朱音はそんなルイの心情が感じ取れた。
 責任感が強く、そして優しいこの少年だからこそ自分を責めているに違いないと思ったのだ。
 無言のまま朱音はそっと後ろからルイの手を握った。突然手を握られたルイがぴくりと肩を揺らし反応したが、ファウストから決して目を離すことはしなかった。
「陛下に、何をするつもりですか!?」
 何があっても自分が朱音を守るとでも言うように、ルイはまた一歩朱音より前に踏み出した。 
「ルイ、俺が世の中で一番手に入れたいと願っているのは何だと思う?」
 ファウストは組んでいた腕を下ろし、自らも一歩進み出た。
 質問を質問で返され、ルイは顔を顰めて緋色の目をじっと見返す。
朱音の手が無意識に震え始める。何か恐ろしいことが起こりそうな予感がした。
「・・・・・・」
「言っておくが、俺が欲しいのは富や財宝なんてチンケなもんじゃねぇ」
 また一歩進み出るファウストに、朱音は思わずルイの手を握ったまま後退した。
「泣く子も黙るドラコの頭領です、僕はてっきりそうだと思っていましたけど」
 張り詰めた空気が漂い、瞬きをすることも憚られる。“ファウスト”という男がどれ程危険な男なのかということを身に沁みて感じた。
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