AKANE
「俺がどんな手を使ってでも手に入れたいのは、“力”だ。この世の誰よりも強い力。それを得る為に俺は今までどんな犠牲も払ってきた」
 恐ろしい程の“力”への執着心に、二人は身震いした。
 ふっと口元を歪ませると、ファウストは朱音を指差す。
「クロウ王、お前の絶対的な魔力をいただく」
 そう言い放ったファウストの緋色の目を見ていると、朱音は恐怖のあまり金縛りにあったかのように身体が硬直して動かなくなった。
「!!!」
 突然ファウストがバランスを崩し、地面にドサリと尻餅をついた。 
 朱音は一瞬何が起こったのかはわからず、パニックになってその場に立ち竦んでいる。
「さ、陛下!」
 ぐいと手を引かれ、我に戻った朱音はルイに引かれるまま駆け出した。鉄の扉を抜け、地下通路を駆け抜ける。
「あのヤロウ! やりやがったな! くそっ」
 扉を蹴り開け、ファウストが胸を押さえながら二人の後を追った。一瞬の隙をついて、ルイがファウストの鳩尾に渾身の力を込めて頭突きしたのだ。
 非常事態に気付き、手下の者たちが次々と加わり、二人を追いかける足音は次第に増えていった。
「ハアハア・・・」
 どれだけ走って逃げて来たであろうか。どこまで続いているのかもわからない地下道は溝に流された油の上に火が灯り、ゆらゆらと足元をしっかりと照らしてくれている。
 しかし、二人の息は荒く、このままこうして逃げ続けるにはもう限界が近付いていた。
「陛下! 僕がここで彼らを足止めしますから、その間に少しでも遠くまで逃げてください!」
 握っていた手を振り解かれ、朱音は思わず足を止めた。
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