AKANE
「ルイ、何言ってるの!?」
「このまま逃げ続けるなんて無理です! 大丈夫、結界を張った後必ず追いつきますから、陛下は先に!」
 追手の足音がすぐ近くまで近付いて来ている。
 ルイは上がった息を整えると、目を閉じ、両の手を追手の方角へ向けて精神を集中させ始めた。
 すぐさますうっと薄い壁のような膜が出現し始めた。しかし、呼吸の整わないせいか、ひどく不安定で、ゆらゆらとシャボンの表面のように揺らめいている。
「いたぞ!」
 追手達がとうとう二人に追いついてきた。
「陛下、お願いです。陛下はこのレイシアに必要な方なのです。今は逃げ、ゴーディアを・・・、サンタシをお救いください・・・!」
 懸命なルイの訴えに、朱音は従わざるを得なかった。きっとあのロランと同じ力を持つルイのことだ。そう簡単に結界が破られることはない筈だ。
「ルイ・・・! 絶対後から追いついてね。約束だから」
 ルイは首から提げていたペンダント型の果物ナイフを朱音の手に握らせた。
「ええ、約束です。それまで、それを陛下が大事に持っていてください」
 朱音は後ろ髪を引かれる思いだったが、意を決して再び通路を駆け出した。
 しかし、それはルイが追いつくまでのほんの僅かな孤独の筈だった。

「・・・結界術か・・・。ルイ、お前結界術が扱えたのか」
 不安定な結界を隔て、ファウストが面白い発見でもしたかのように愉快そうに笑っている。
「陛下には指一本触れさせない!」
 相当の距離を走ったせいもあり、体力の消耗が激しいのかルイの結界はなかなか安定しない。
「結界を解けって。お前を殺さずに生かしておいたのは、こんなことをする為じゃねえ。ルイ、お前なら俺達の仲間になれる、そう思ったからだ」
 ルイは結界を安定さえようと、懸命に精神を集中させようとする。
「僕にドラコの仲間に加われと? 馬鹿を言うのは止してください」
 ファウストの後から追いついた手下達も、息を切らしながら結界の向こうからじっとルイを見つめている。皆、あの黒く巻いた布は取っ払っていて、どれもまだ少年の域を出ない者や青年程度の顔ぶれである。
「俺を含め、ここに居るのは皆人間と魔族の合の子ばかり。ルイ、お前もそうなんじゃねぇか?」
 大きく動揺し、ぐにゃりと結界が大きく揺らぐ。
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