AKANE
 驚き、思わず閉じていた目を見開き、揺れ動く結界の向こう側に悠々と立つ赤髪の青年を見た。
「今なんと!?」
「サンタシへと続いていると言った。サンタシのミラクストーという街にな」
 ミラクストーはルイとロランの生まれ故郷に違いなかった。しかし、ルイはまさかあの街とカサバテッラが地下道で繋がっているとは今まで知る由も無かった。
(陛下・・・!)
 無事地下道から脱出できたにせよ、敵国の領土内にたった一人で侵入するにはあまりに危険すぎる。
 一刻も早く結界を完全に安定させて、自分が主に追いつく他に方法は無い。
「ルイ、結界を解け。魔族と人間の間に生まれたお前ならわかる筈だ。俺達に居場所などどこにもねえ。迫害・・・、奇異の目・・・、疎外感・・・」
 ファウストの言うことは正しかった。
 ルイ自身、ミラクストーでロランとともに育ち、街の人間から数々の迫害を受けてきた。そのせいで母もルイもロランも、随分辛い思いをしていたのは確かだった。だからこそ母が亡くなった後、二人は父リュックを探し、ゴーディアへと渡ったのだ。
 しかし、ファウストのいうことに耳を貸すことなど、ルイにはできなかった。
「嫌です、結界は解きません。僕は陛下をお守りしなければならない。アザエル閣下に陛下をお守りするよう言われたんです。それに・・・、陛下は僕に生まれて初めて居場所をくださった」
 ルイの強い思いが急速に結界を安定させ始めた。
 ちぃと舌打ちした後、ファウストはぼそりと呟いた。
「なんでそこまでしてあの魔王の息子を助けようとする? 魔王ルシファーもあの息子も、お綺麗な人型の仮面を被った化け物じゃねぇか」
 ルイが安定し始めた結界から手を離し、ゆっくりと後退しながらその場を立ち去ろうとする。
「待て、ルイ。最後の忠告だ。俺はお前を殺りたくねえ。この結界を解け。俺はクロウ王を倒し、その力を手に入れ、必ずやこの世界を手に入れる。人間でも魔族でもねぇ俺達の真の居場所を得る為にな!」
 ファウストの声を無視し、ルイは結界に背を向けて駆け出した。
「後悔するなよ!」
 その声の直後、凄まじい程の熱気に、ルイは思わず足を止めて振り返る。
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