AKANE
 結界に向けて、ファウストの翳した手から凄まじい炎が吹き付けていた。
 ときおり渦巻く炎の隙間から垣間見えるファウストの緋色の瞳と真っ赤な髪は、禍々しささえ感じる。安定させた筈の結界の膜は、表面がマグマのように赤く熱されていた。
(なんだ、この炎は・・・! これがファウストの魔力!?)
 このままだと、いくらもしないうちに結界は破られてしまうだろう。
 結界ごしに伝わってくる熱風に、ルイは蒸されるような急激な暑さを感じた。
(なんとか喰い止めなければ・・・!)
 つうと額から流れ落ちる汗を手の甲で拭い、ルイは熱を発する結界の前へと舞い戻った。
 手を翳し結界の崩壊を防ぐ為、再び精神を集中させる。しかし、呼吸もままらない程の暑さ。ルイの身体から流れ滴る汗は異常な程であった。
「無駄だ」
 ルイは感じていた。この男が、自分を遙かに凌ぐ魔力を持ち合わせているということを。
 そして、遠からず、この結界は消失するだろうということも・・・。


 朱音は胸騒ぎを感じた。
 しばらく経っても一向に追いついてくる気配の無いルイ。
 別れ際に必ず追いつくと約束して預かったペンダントをそっと指先で触れると、朱音はどういう訳かやはり元来た道を引き返さねばならないような気がしてならなかった。
(ルイ・・・!)
 朱音は踵を返して元来た道を懸命に走った。急がねばならない気がした。
(ルイ、やっぱりあなたを置いていけないよ・・・!)
 何か恐ろしいことが起こっている気がしてならなかった。
 ルイが足止めをすると言い出した時、無理矢理にでも彼を引っ張って連れて来るべきだったのかもしれない、と朱音は思い始めていた。
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