AKANE
 どういうことか、途中から先程までは感じなかった蒸し暑さを感じ始めた。はじめは気のせいかと思った朱音だったが、異常な暑さに異変を察知した。
(ルイ!!)
 通路のずっと先で、何か赤いものがちらついているのが視界に入ってくる。
 ここは、先ほどルイと別れた筈の場所に間違いはなく、そして小さく見える人影はルイのものに違いなかった。
 そして、そのすぐ近くで何かとてつもないことが起こっていることも朱音には理解できた。
「ルイーーーー!!!」
 これだけ離れていてもこれ程の暑さだ、ルイが位置する場所だと恐ろしい暑さに違いない。
 朱音はこれまでに無い程に走った。
 ただ、ルイを救い出さねばならないという思いが、朱音の疲労しきった足をがむしゃらに動かしていた。
 少しずつルイの表情が見える程の距離へと近付くにつれ、辺りの温度が急激に上がっていくのがわかる。
 朱音に気付き、僅かに振り返ったルイの顔は、水につかったかのような異常な汗で滴り、皮膚から立ち昇る蒸気さえも見えた。
「陛下・・・! なぜ戻ってきたのですか!? もう結界が持ちません! 離れて!!」
 いつもは愛らしいルイの声は、本人のものとは思えない程に掠れ、朱音は驚き叫んでいた。
「ルイーーーーーーーーー!!!!!!」
『ゴオオオオオオオオオオ』
 朱音の叫び声とほぼ同時に、ルイを一瞬にして炎が飲み込み、そしてその炎は一層勢いを増しながら渦を巻き朱音に襲い掛かった。炎はまるで意志をもっているかのように燃えがる。
 しかし、朱音は次の瞬間、自分がまだ生きていることに気がついた。
 確かに炎に飲まれてはいるが、僅かに、朱音の周囲に薄い膜のような結界が張られ、燃え盛る炎から朱音の身体を防いでくれていたのだ。
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