AKANE
クロウはアプリコットの髪のベリアルと無言のまま向かい合っていた。
「化け物・・・」
可憐なぷくりとした唇から漏れた一言はまだ少年の域を出ない王子の心をひどく傷つけるにはあまりに十分すぎる言葉であった。
一見なんの表情も無いかのように俯いた王子の足元には、今や肉塊と化した元近衛兵の残骸が無残に転がっている。鉄臭い死臭。
どうして彼がこうなってしまったのか、クロウにはまだ理解できなかった。
「お前はなんて醜い生き物なの・・・! ああ、恐ろしい・・・!」
恐怖に慄いたベリアルの瞳。何か恐ろしいものでも見たかのように、彼女はがくがくと自らの肩を抱きしめると震えながら王子から目を逸らした。
「は・・・、母上・・・?」
どれ程愛していても、決して受け入れてくれなかった偽の母。
しかし、クロウは彼女が偽の母とわかってはいても彼女にいつか受け入れて貰えると信じ、愛することをやめなかった。
肉塊を踏みつけていることにさえ気付かず、クロウはベリアルに一歩近付いた。
「お前の母になった覚えなど一度だってありません! ああ、浅ましい! お前などいなくなってしまえばいいのに!」
ベリアルは震えたまま一歩後退すると、いつもは可憐な口元をひどく歪ませる。
「母上・・・、僕・・・、母上が・・・」
クロウがまた一歩踏み出すたびに、ベリアルは同じだけ後退してゆく。
「お前が存在したせいで、わたくしは陛下の愛を手に入れることができなかった。お前さえいなければ・・・、お前さえいなければ、わたくしがこんなにも心を乱すことなどなく、幸せに生きていけたのに・・・!」