AKANE
表情も何もない筈のクロウの黒曜石の瞳から、ぽろりと雫が零れ落ちた。
「わたくしがこんな身体でなければ、陛下のお子を宿し、卑しい妾の子であるお前など城から追放してやれたのに・・・! 忌々しいっ」
とうとう壁際に追い詰められてしまったベリアルは、壁にかけられていた剣の飾りを抜き取り、王子に剣先を向けた。
「近寄らないで! それ以上近寄ればこれでお前を突き刺してやるから!!」
「母上・・・、僕・・・」
ベリアルの振り回した剣先がクロウの頬を僅かにか掠め、つうと一筋の血が筋になって流れ落ちる。
「来るな! ああっ陛下・・・! お助けください!」
すでに発狂しかけているベリアルを前にして、明らかにクロウの纏う空気の色が変わり始めていた。
哀しみのあまり、王子は我を失いかけていたのだ。
「きゃあああっ!!」
クロウの周囲に起こり始めた得体の知れない空気に触れたとたん、ベリアルの愛らしいオレンジのドレスが弾かれた。
「そこまでです、殿下」
大きく見開いた瞳が驚いたように背後を振り返り、そのままぐらりと身体を傾かせた。
突然姿を消した黒い空気に、ベリアルはぺたりとその場にへたり込み、握っていた剣を転がした。
いつもは結われた碧く美しい髪は、今はさらりと水のようにクロウの頬を滑り落ちていく。後ろから抱きしめるような形のアザエルの手にはしかと短剣の柄が握られていた。
ぱくぱくと何か話そうと口を開いたクロウだったが、その美しい黒曜石の瞳は開いたまま見る間に輝きを失い、人形のようにだらりと動かなくなった。
王子の胸に深く突き刺さった短剣。
「殿下・・・、お許しください」
「わたくしがこんな身体でなければ、陛下のお子を宿し、卑しい妾の子であるお前など城から追放してやれたのに・・・! 忌々しいっ」
とうとう壁際に追い詰められてしまったベリアルは、壁にかけられていた剣の飾りを抜き取り、王子に剣先を向けた。
「近寄らないで! それ以上近寄ればこれでお前を突き刺してやるから!!」
「母上・・・、僕・・・」
ベリアルの振り回した剣先がクロウの頬を僅かにか掠め、つうと一筋の血が筋になって流れ落ちる。
「来るな! ああっ陛下・・・! お助けください!」
すでに発狂しかけているベリアルを前にして、明らかにクロウの纏う空気の色が変わり始めていた。
哀しみのあまり、王子は我を失いかけていたのだ。
「きゃあああっ!!」
クロウの周囲に起こり始めた得体の知れない空気に触れたとたん、ベリアルの愛らしいオレンジのドレスが弾かれた。
「そこまでです、殿下」
大きく見開いた瞳が驚いたように背後を振り返り、そのままぐらりと身体を傾かせた。
突然姿を消した黒い空気に、ベリアルはぺたりとその場にへたり込み、握っていた剣を転がした。
いつもは結われた碧く美しい髪は、今はさらりと水のようにクロウの頬を滑り落ちていく。後ろから抱きしめるような形のアザエルの手にはしかと短剣の柄が握られていた。
ぱくぱくと何か話そうと口を開いたクロウだったが、その美しい黒曜石の瞳は開いたまま見る間に輝きを失い、人形のようにだらりと動かなくなった。
王子の胸に深く突き刺さった短剣。
「殿下・・・、お許しください」