AKANE
3話 目覚め始めた記憶
愛していた・・・。
僕を殺そうとした人・・・。
可憐で、そして穢れを知らない美しい人。
皆の愛を独り占めした人・・・。
なのに、たった一人の愛を手に入れる為に、全てを裏切った人。
僕は何一つ望んでなどいなかった。
僕はただ、貴女に気付いて欲しかっただけだったのに。
ここに、それでも貴女を大好きなちっぽけな自分がいることに、僕はただ気付いて欲しくて。
傷つけたくなんかなかったのに・・・。
これは、父ルシファーがブラントミュラー公爵の手により毒を盛られた直後、母ベリアルとの間にあった悲しい記憶・・・。
「さあ、もうこの辺りでいいわ」
アプリコットの髪を揺らせながら、可憐な王妃は近衛兵に目配せをした。
こくりと頷くと、静かに近衛兵は突きつけていた剣の刃を引き下げると、胸の内側から小さな小瓶を取り出した。
「クロウ、怖かったでしょう? こんな乱暴なことをされてひどく混乱しているでしょうね・・・」
ベリアルは嘗て一度もクロウに向けたことのない優しい表情を浮かべ、クロウにそっと歩み寄った。
「母上、父上は一体どうしたんですか・・・?」
「あなたは何も心配いらないの。いいこと、今から母が言うことをしっかりと聞いてちょうだいね」
クロウの白い頬に滑らされた華奢なベリアルの指。こんなにも近くにクロウの近くに母が居たことはきっとなかっただろう。