AKANE
「まあ・・・、なんて子・・・! 」
こうして存在するだけでベリアル自身を惨めにさせるこの少年。お前がいなくなればいいと何度願ってきたことか。しかしほんの一抹の良心が、魔力を奪い、どこか遠くの地へ追放してしまうに留めてやってもいいと美しい王妃は思った。
だが、やはりこの憎らしい子どもにはそうした情けも無用だと、ベリアルは考えを改める。ここで根絶やしにしておかねば、いつまた自らとルシファーの邪魔立てをするかわからない、と。
「わたくしは先に馬車へ行きます。お前はこの子とルシファー陛下の側近を殺してから追いつきなさい。生かしておくと碌なことがありません。それから、陛下は必ず無傷でお連れするようにと、ブラントミュラー公爵に伝言をしておきなさいな」
軽蔑したようにつんと横を向くと、ベリアルはアプリコットの髪をふわりとなびかせて歩みを始めた。
「母上! 待って下さい!」
クロウが駆け寄ろうとしたその前に、鞘から刀身を抜き払った近衛兵が立ち塞がった。
「ふん、ただのイカれた餓鬼だとばかり思っていたが、さすがはルシファーの息子、混入された血に気付いて命拾いしたか。だが、それもここまで」
近衛兵の纏っていた空気が、明らかに別人のように殺気を放つものに変わった。これは、もともと暗殺者として訓練され、送り込まれた者に違いない。
「・・・もともと僕を殺す気だったんだね・・・。そして父上も・・・」
ふっと僅かに唇に笑みを浮かべて、男は剣を勢いよくクロウに突き立てた。
一瞬目の前が真っ白になった。
次に目を開いたとき、足元にはぐちゃぐちゃになった肉塊と血溜まりができていた。自分が一体何をしてしまったのか、どうしてこうなってしまったのか、少年には理解できなかった。
『息子よ、お前には特別な力が備わっている。今はまだその力をうまく使いこなせはしないが、わたしは信じている。お前がいつの日かこのゴーディアを引き継ぎ、ゴーディアの民を守ってくれるだろうことを』
穏やかな父の声がクロウの頭の中をふと過ぎった。
“魔王”と呼ばれるには優しすぎた父。その心は、いつもゴーディアの民のことでいっぱいであった。
こうして存在するだけでベリアル自身を惨めにさせるこの少年。お前がいなくなればいいと何度願ってきたことか。しかしほんの一抹の良心が、魔力を奪い、どこか遠くの地へ追放してしまうに留めてやってもいいと美しい王妃は思った。
だが、やはりこの憎らしい子どもにはそうした情けも無用だと、ベリアルは考えを改める。ここで根絶やしにしておかねば、いつまた自らとルシファーの邪魔立てをするかわからない、と。
「わたくしは先に馬車へ行きます。お前はこの子とルシファー陛下の側近を殺してから追いつきなさい。生かしておくと碌なことがありません。それから、陛下は必ず無傷でお連れするようにと、ブラントミュラー公爵に伝言をしておきなさいな」
軽蔑したようにつんと横を向くと、ベリアルはアプリコットの髪をふわりとなびかせて歩みを始めた。
「母上! 待って下さい!」
クロウが駆け寄ろうとしたその前に、鞘から刀身を抜き払った近衛兵が立ち塞がった。
「ふん、ただのイカれた餓鬼だとばかり思っていたが、さすがはルシファーの息子、混入された血に気付いて命拾いしたか。だが、それもここまで」
近衛兵の纏っていた空気が、明らかに別人のように殺気を放つものに変わった。これは、もともと暗殺者として訓練され、送り込まれた者に違いない。
「・・・もともと僕を殺す気だったんだね・・・。そして父上も・・・」
ふっと僅かに唇に笑みを浮かべて、男は剣を勢いよくクロウに突き立てた。
一瞬目の前が真っ白になった。
次に目を開いたとき、足元にはぐちゃぐちゃになった肉塊と血溜まりができていた。自分が一体何をしてしまったのか、どうしてこうなってしまったのか、少年には理解できなかった。
『息子よ、お前には特別な力が備わっている。今はまだその力をうまく使いこなせはしないが、わたしは信じている。お前がいつの日かこのゴーディアを引き継ぎ、ゴーディアの民を守ってくれるだろうことを』
穏やかな父の声がクロウの頭の中をふと過ぎった。
“魔王”と呼ばれるには優しすぎた父。その心は、いつもゴーディアの民のことでいっぱいであった。