AKANE
4話 遠い友人
夜明けの海は不気味な程静まり返っていた。
水平線から昇る朝日に、じっと美しい茶の瞳を細め、騎士はゆっくりと立ち
上がった。
「これって嵐の前の静けさというんでしょうか・・・。薄気味悪いですよね」
背後から部下の青年騎士が声を掛けた。
「ああ」
冷やりとまだ冷たい湿気を含んだ風が吹き抜け、いつの間にか耳に掛かるまでに伸びた金の髪が、甲(かぶと)の下から僅かにのぞき揺れる。
「いよいよか・・・」
小さく呟いた声とともに、敵国の侵攻を知らせる狼煙が高台から上がった。
水平線から少しずつ姿を現してくる、敵船の黒い影。一隻、二隻と見えてい
たそれは、近付くにつれて、数えるのも馬鹿らしくなる位に次々と姿を現し始
めた。
「来ましたね・・・」
小柄の騎士がじっと目を凝らして敵船を見つめる。
船には、魔族の象徴“黒翼”の描かれた帆が風で翻っている。魔王ルシファ
ーが天上から降臨した際、蒼黒の翼を悠然と広げていたという伝説から、ゴーディアの国旗として掲げられるようになったと聞く。
敵船が着々とサンタシの兵の待ち受ける港へと迫り来ていた。
フェルデンはディアーゼの港を取り囲むように設置した、石壁の上から海を見下ろし声を張り上げた。
「なんとしても俺たちは、ここでゴーディアの兵の侵攻を阻止しなければならない!」
ぴりぴりとした緊張した空気が張り詰め、サンタシの騎士達は各々の左胸に、誓いの右拳をぐっと握った。