AKANE
ユリウスは、空いた手で剣の鞘を取り蔦の攻撃を受け止めながら、その一瞬の隙を狙って剣で一撃を放った。
 しかし、その攻撃は寸でのところで避けられてしまった。
 メフィスの頬をつうと一筋の血が伝うと、メフィスは小柄の騎士をじっと見据えた。
「アザエルはともかく、あの我儘で傲慢な少年王に従うと・・・? あんた、本当にそれでいいのかよ」
 ユリウスは剣を強く握り直すと、メフィスの赤茶の瞳を軽蔑に満ちた目で見つめ返した。
「何を勘違いしてるかは知らないけど、ぼくはゴーディアの使い捨ての駒の一つにすぎないんだよ。ぼくに国王の命に背く余地なんてあると思う?」
 二人の騎士は互いの腹を探り合っていた。
 一人はサンタシ騎士団第一隊の若き長、そして、もう一人はゴーディアの黒の騎士団副司令という肩書きの二人は、立場は違えど実力的には互角とも言えた。
「それでも、おれはあの幼い国王の仕出かしたは、とてもじゃないけど納得できそうにないけどな」
「君も人の上に立つ立場なら分かるだろう、納得するしないの問題じゃない。ただ、ぼくたちは国王や上官の命に従う。それしか道はない」
 メフィスの言っていることは正しかった。
「説得を試みるのは無理みたいだな。やっぱりおれとあんたは、ここでどちらかがくたばるまで殺り合うよう定められてるみたいだ」
 いつの間にかメフィスの、植物を操る手は止められていた。
「仕方無い。ここは君のレベルに合わせてあげるよ。ほんとは、ぼくは“剣”なんて低属な武器はあんまり好きじゃないんだけど、一応これでも一端の騎士なんでね」
 “剣”が嫌いな騎士などあってたまるか、と反発心を抱いたユリウスだったが、この男が再び剣を持ち直した途端、その腕が相当のものであることを肌で感じ取った。
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