AKANE
6話 強き想い
ディートハルトは急いていた。剣士として長年の勘が、不吉を告げていた。
すでに白亜城を出立してから一日半が経過していた。太陽は真上をとうに通り過ぎ、夕刻に近付いてきている。ディートハルトは、決して馬の足を止めることなく、知り尽くしたサンタシの、最短の距離である道なき道を走り続けた。
少しでも気を抜けば、崖下に真っ逆さまという場所や、川の中を馬で突っ切ることもあった。飲み食いの一切をも絶ち、彼はひたすら目的地ディアーゼに向けて馬を走らせてきた。
とは言え、腕の中の少年の様子が気にならなかった訳ではない。
城を発つときから、あまりいいとは言えない顔色の少年王だったが、慣れない馬で長時間揺すられていることもあって、その横顔が死人のように真っ白なのには少々驚いた。ふと、この少年は死んでいるのでは・・・? と不安に思うこともあったが、彼は定期的に黄色い胃液を吐き出すので、それがどうやら生きてはいるようだという確認になっていた。
長旅でぼろぼろになった上に加えて、城での惨劇により血だらけになった衣服は、出立前に白亜城で調達した旅装束に取り替えられてはいたが、彼の顔や頭は未だ砂埃で塗れていた。さすがに風呂に入る時間まではなかったのだ。
だが、なるほどまだ王としては幼い少年王の姿ではあったが、ディートハルトが嘗て目にした“魔王ルシファー”とあまりによく似ていた。
ふとその美しさに見入りそうになるが、気を抜けば彼が目を開いたままふと意識を遠ざけ、落馬しかけるので、ディートハルトは彼の細っこい腕をいつでも掴めるように準備しておかねばならなかった。
「クロウ陛下、貴方はもしかするとしばらく何も口にしておられんのでは・・・? どこかで休みをとりましょうかな?」