AKANE
一人は槍を握り、もう片方は剣を構えたまま静止していた。
「大変・・・! フェルデン・・・!」
 はっとして朱音が結界の表面に触れると、バチリと結界の表面が弾け、結界の通過を阻んだ。火傷のような痛みを僅かに触れた部分に感じ、朱音は唇を噛み締めてじっとその向こう側を見つめた。
「長時間の睨み合いが続いているようですな」
 いつの間に追いついたのか、朱音の頭上からディートハルトの低い声が降りてきた。
「ライシェル・ギーか・・・」
「あの騎士を知っているんですか!?」
 ディートハルトを仰ぐように振り返ると、朱音はその逞しい腕をぎゅっと掴んだ。
 少し目を丸くしたが、ディートハルトはその手を振りほどいたりはせず、小さく頷いて、こう付け加えた。
「わたしが今よりずっと若かったころ、あの男と一度闘ったことがあります。
そのときに負った傷がこれですな」
 ケロイドになった大きな顔の傷。今となってはただの傷跡にすぎないかもしれないが、この傷を負った当初、余程酷い傷だったに違いない。
「じゃあ、“三剣士”だっけ・・・? と呼ばれるすごいディートハルトさんにそんな傷を負わせる位、あの騎士は強いの・・・?」
心配そうに見つめ返してくる朱音の大きく美しい黒曜石の瞳に、思わずディートハルトは釘付けられてしまいそうになりながらも、その正当な疑問に答えてやった。
「確かにあの男は、今までフェルンデン殿下が闘ってきた中でも格段に強い。ましてや、同じ剣ではなく槍の使い手だ。やり難いことこの上ない・・・。しかしながら、その頃のわたしはまだ見習い剣士でもありました故。」
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