AKANE
朱音は嘗て目にしたことのない、フェルデンの胸(きょう)甲(こう)姿の隙のない騎士姿に、もう一度視線を戻した。しかし、その手は未だディートハルトの逞しい腕を握り締めている。
「ゴーディア一の剣士がアザエルとするならば、あの男はゴーディア一の槍使い・・・ではないでしょうかな?」
はて、とディートハルトは不思議に思う。ゴーディアの国王の座に居るこの少年王が、なぜに自らの強駒である騎士達の存在を把握していないのか、と。
しかし、とある儀式にてこの小さな国王はまだ覚醒して間もないと聞く。それも仕方が無いことなのかもしれないと、屈強な剣士は自らを納得させた。
朱音もなんとなくは分かっていた。空手の師範をしている父がよく言っていた。“強い者程無駄な動きはしないもの”と。相手が強ければ強い程、相手の間合いに踏み入るタイミングをよく見定めなければならないのだ、と。
下手に相手の間合いに飛び込むと、逆に相手から痛恨の一撃を食らう羽目になる。だからこそ、相手の呼吸を読み、空気を読まなければならないのだ。それには、相当の集中力と体力、そして精神力が要る。どれか一つ一瞬でも欠落させたとき、それは敗北を意味する。
実際、二人の運動量は対峙している今、ゼロに近い。しかし、二人の額からは幾筋もの汗が滴り落ちていた。
(あの集中力、殿下は少し見ない間に相当腕を上げたようだ・・・)
ディートハルトはじっと目を細め、嘗ての弟子を見つめた。あんなに小さく幼かった王子は、いつの間にか師の手を離れ、有能な騎士へと成長を果たしていた。二年前、彼に騎士団の指令官の地位を譲ったことは、間違いでは無かったようだ。
「どうしよう、あの二人を止めなきゃ・・・!」
朱音には分かっていた。二人が動いたとき、そのときはきっとただでは済まないということを。
「ディートハルトさん、わたしが出ていって二人を止めます! この壁、なんとかなりませんか?」
ディートハルトは驚いていた。この小さな少年王は、本能で二人の騎士が命を賭けた勝負であるということに気付いていたのだ。
「ゴーディア一の剣士がアザエルとするならば、あの男はゴーディア一の槍使い・・・ではないでしょうかな?」
はて、とディートハルトは不思議に思う。ゴーディアの国王の座に居るこの少年王が、なぜに自らの強駒である騎士達の存在を把握していないのか、と。
しかし、とある儀式にてこの小さな国王はまだ覚醒して間もないと聞く。それも仕方が無いことなのかもしれないと、屈強な剣士は自らを納得させた。
朱音もなんとなくは分かっていた。空手の師範をしている父がよく言っていた。“強い者程無駄な動きはしないもの”と。相手が強ければ強い程、相手の間合いに踏み入るタイミングをよく見定めなければならないのだ、と。
下手に相手の間合いに飛び込むと、逆に相手から痛恨の一撃を食らう羽目になる。だからこそ、相手の呼吸を読み、空気を読まなければならないのだ。それには、相当の集中力と体力、そして精神力が要る。どれか一つ一瞬でも欠落させたとき、それは敗北を意味する。
実際、二人の運動量は対峙している今、ゼロに近い。しかし、二人の額からは幾筋もの汗が滴り落ちていた。
(あの集中力、殿下は少し見ない間に相当腕を上げたようだ・・・)
ディートハルトはじっと目を細め、嘗ての弟子を見つめた。あんなに小さく幼かった王子は、いつの間にか師の手を離れ、有能な騎士へと成長を果たしていた。二年前、彼に騎士団の指令官の地位を譲ったことは、間違いでは無かったようだ。
「どうしよう、あの二人を止めなきゃ・・・!」
朱音には分かっていた。二人が動いたとき、そのときはきっとただでは済まないということを。
「ディートハルトさん、わたしが出ていって二人を止めます! この壁、なんとかなりませんか?」
ディートハルトは驚いていた。この小さな少年王は、本能で二人の騎士が命を賭けた勝負であるということに気付いていたのだ。