AKANE
 しかし、二人はここに居てここには居ないようであった。
 二人の精神は既に別次元にあり、周囲の情報全てから断絶されていた。ここから叫んだところで、二人の耳にはきっと届くことはないだろう。
「おい、餓鬼! おまえ一体何者だ・・・? 敵か? 味方か・・・?」
 歩兵の一人が剣を抜き、朱音へ向けながら投げ掛けた。
「早くあの二人を止めなきゃ・・・!」
 我を忘れるほどの美しい朱音の黒曜石の瞳に、一瞬歩兵の男はたじろいだ。
「何言ってる。これは戦だ、止めるなんてできる訳がない!」
 そう男が言った瞬間、ライシェルの見えていない目が大きく見開かれた。ほぼ同時に、二人の騎士が馬を突進させていく。猛烈な速さであった。
「やめてーーーーーーーー!!!!!!」
 朱音は半ば悲鳴のような声を上げていた。


 
 その直後、朱音はまたあの暗闇に包まれていた。ルイを失ったあのとき、訪れた暗闇と同類の闇だ。
「あれ・・・? わたし、どうしちゃったの・・・?」
 こんな暗闇に囚われている場合ではないというのに、今こうしている間にも、フェルデンが致命傷を負っているかもしれない。
「会いたかったよ、アカネ」
 ふと背後から抱きしめられ、朱音は驚いて振り向こうとするが、僅かに振り向くことができたのは首だけだった。
 聞き慣れる声。朱音の身体を包み込む手は白く、その美しい手はやはり見覚えがあった。 
「あなたは・・・、クロウ・・・?」
 くすりと耳元で微笑むと、
「会いたかったよ。もう一人の僕」
 すっと回された腕を解かれると、朱音はゆっくりと少年に向き直った。
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