AKANE

7話 相携う者たち


「陛下、遠征で碌な食料が残っておりませんので、こんな物しかお出しできませんが・・・」
 朱音は湯気の立ち昇る、温かいスープの器を手にとった。
 思えば、何日かぶりの温かい食事だった。日持ちのするパンとスープという簡素なものだったが、それは朱音にとっては十分な食事であった。
 ゴーディアの船の中で、朱音は今、丸いテーブルを挟んでライシェル・ギーと向かい合っていた。
 盲目の彼が、どうして“新国王クロウ”と名乗る怪しい少年を信用してくれたのかは朱音にも分からないが、彼は疑うどころかすぐさま馬を降りて頭(こうべ)を垂れた。
「無礼な立ち振る舞い、申し訳ございませんでした。まさか、この戦場に陛下御自らお越しになっていようとは、思いも寄りませんでしたので・・・」
 朱音はスープを一口啜ると、小さく首を振った。
「いいえ。それより、どうしてわたしを信じてくれたんですか? もしかすると、国王を名乗る別人かもしれないのに」
 それを聞いた途端、ふっとライシェルは俯き表情を緩めた。
「確かに自分は陛下のお顔を拝見することはできません。しかし、その分目に見えぬものを感じ取ることができます。そう、身体から発せられる目には見えない色・・・。その色は亡きルシファー陛下のみが携えておられた特別な色です。他の誰にも真似することなどできません」
 そう言ったライシェルの顔を見つめた後、彼の琥珀色の眼が本当に何も映していないと思うと、なぜか不思議な気持ちになった。
 船の外は未だ張り詰めた空気で満ちてはいたが、一時休戦となっていた。   
窓の外には、相変わらず半透明の薄い膜のような結界が張り巡らされている
のが伺える。サンタシ側も、いつ何時仕掛けてくるかわからないゴーディアを警戒し、まだ臨戦態勢を崩していないようだ。
 フェルデンを含むサンタシの兵達も、今は自軍の医療班陣営地へと一旦引き上げている。
「ライシェルさん、この戦はわたしの望んだものではありません。嵌められてしまったんです・・・。裏でわたしを陥れようと糸を引いている者がいます」
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