AKANE
「フェルデン殿下から事の成り行きは全て聞きましたぞ。サンタシとゴーディアの騎士が手を組む日がわたしの生きている間に訪れるとは思ってもいませんでしたのでな、不謹慎ながらもちょっと胸が騒いでおるのです」
 そうして、この素晴らしい提案をしたのが少年王だと知って、ディートハルトはわざわざこの少年王の姿を探して、忙しい最中にここまでやって来たのだった。
「正直なところ、わたしには殿下とライシェル・ギーの戦いを止めることはできなかった・・・。礼を言っておきますぞ、クロウ陛下」
 そう言って、ディートハルトはくるりと元来た道に向き直った。
「いいえ。わたしの方こそ、ここまでわたしを連れてきてくださって有難うございました。そして、またしばらく、よろしくお願いしますね」
 背中を向けて力強く歩き始めたディートハルトは、大きな左の手を挨拶代わりにひらひらと振りながら立ち去っていった。
 朱音はパンと両の頬を自らの手で軽く叩くと、「よし!」小さく掛け声をあげた。
(こんなところで挫けててどうする、朱音! まだ完全に消えた訳じゃないだから、最後まで自分の役目を果たさなきゃ! ここでへこたれちゃ、新崎家の血が廃る!)
 それに、朱音はまだ小さな希望を捨てていなかった。ひょっとして、ひょっとすると、神様か天上人だか何だか知らないけれど、不幸な一人の少女を哀れに思って、何か得策を講じてくれるかもしれない・・・! と。
 


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