AKANE
 再び馬に跨ったタリアに、ライシェルは付け加えた。
「余計な疑心を生みたくはない、フェルデン・フォン・ヴォルティーユに、陛下が意識を取り戻し次第すぐに追いつくと伝えておけ」
 こくりと頷くと、タリアは他の騎士達を引き連れ、勢いよく駆け出した。彼女には遅れをとった分を取り戻し、尚且つサンタシの指令官に言伝をするという重要な任務が加わったのだ。
 少しでも速く駆けられるようにと、両国の騎士は皆、僅かな武器のみを身につけた軽装備で出立していた。ライシェルも、今は胸甲を身につけていない。赤い刺繡の入った美しい藍の衣に、琥珀色の髪を高く小さくまとめた姿がやけに東洋めいて見える。
 これまで休みなく走ってきたが、夜もかなり更けていた。すっかり深まった闇の中で、ライシェルは朱音の身体を馬に預けたまま、少し道を外れた場所へと馬の手綱を引いた。もともと目の見えない彼にとって、夜の闇も昼間となんら変わりは無い。
 ライシェルは、自らの藍のマントを取り外すと、成る丈寝心地のいいだろう草の上を探してそれを敷いてた。そして馬からそっと抱き下ろした朱音の身体を横たえてやる。
 そしてふと思った。この華奢な身体で、これまでどれだけ過酷な旅をしてきたのかと。
「アザエル閣下は貴方を選び、確立してきた地位や名誉さえも投げ打ってまで貴方に忠義を尽くした・・・。その理由が、今ならよくわかる。貴方ならば、両国の長き闘いに終止符を打つことができるかもしれない・・・」

 

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